前回のオシロスコープに続き、今回も浅田様からのホイールアライメント情報を掲載いたします。
協力:(株)アサダ自動車商会 浅田純一様
業界ではかつてサイドスリップテスタでの測定を「トーインを測る」というような言い方をしている時期がありました。これは車検ラインを通過する際に横滑り量が適合範囲内にあることを前提とし、また調整機構がトーのみという自動車が多いことが原因であったかと思われます。
明らかにサイドスリップテスタに対する誤認なのです。
一例をあげましょう。
上図「わにまる」くんの横にアップしましたのは、右フロントに取り付けられていたタイヤですが偏摩耗しています。走行は15,000kmと決して多走行ではありませんが、異常な減り方です。この車両のサイドスリップは±0を示していました。
データを確認すると赤枠でくくった箇所に問題があります。まずキャンバーが過大であることに加えトー(IN)も過大であることの複合要因が考えられます。左側のトー(IN)も過大ですが今回の偏摩耗は右フロントタイヤに顕著に現れていました。このように問題のある数値が計測されたにも関わらず、なぜサイドスリップが±0であったのかということですが、サイドスリップテスタが読み込んだ要素を考えると理解できます。
仮にキャンバが0°00’の自動車がトーインの状態にあるとすればサイドスリップテスタはINを表示します。サイドスリップテスタがINを表示するということは、板は外側に向かって動きます。次にトーが0mmの自動車にポジティブ(+)キャンバが設定されていれば、サイドスリップテスタはOUTを表示し、板は内側に向かって動きます。もうお判りでしょうが、この組み合わせが絶妙であったことで板の動きが打ち消しあった結果、サイドスリップテスタは±0を示したということに過ぎません。よって試運転においても自動車は流れることなくまっすぐに走行。それでも潜在するアライメントの狂いという異常がタイヤの偏摩耗として顕在化したということです。
この自動車も受け入れ時には、後輪の整列に問題はないのかという簡易診断はしています。その診断をしたうえで4輪アライメントテスタによる測定を行いました。
簡易診断での判断はこのデータの一番上の数値にありますように、スラストアングルは+0°00’であり、幾何学的中心が保たれていることを表していますので、糸を用いた”簡易”診断といっても軽視してはいけません。
ホイールアライメントサービスは高価なテスタを導入しなくても、アライメントの諸要素を深く理解すれば簡易的な診断や調整も可能です。もし後輪アライメントに問題があれば、まずそちらから解決していかなければいけませんが、調整機構のない車種の場合、前後関係なく加工が必要となりますが、それはまた別の機会にでも。